新しい食材、調理法の組み合わせで「ここでしか体験できないこと」を追求
伝統と革新のバランスを取るための重要なファクターが「うまい出汁」
気候風土に恵まれた日本は、海の幸、山の幸が豊富。手を加え、味を重ねることでおいしくする外国の料理とは違い、美味しい食材を見つけ、素材そのものの持ち味を活かす独特の文化が育った。現在の日本料理店では、出汁の素材として昆布、鰹を使うのが主だが、その手法が登場するのは室町時代。料理に獣肉の出汁ではなく干した椎茸や野菜、昆布など植物性のものを使うのは、仏教の教えの影響といわれている。野菜にうまみを加える工夫として出汁が使われた禅宗の精進料理が茶懐石、そして料亭、料理店で楽しむ会席料理のルーツなのだ。
また、日本は軟水ゆえ、昆布、椎茸など植物性はもちろん、鰹節、煮干しなどのうまみも出やすいということも美味しさにつながっている。出汁を大切にする日本料理店では、良質の昆布を選び、鰹節も削りたての香りの良いもの、そして出汁のうまみを引き出してくれる天然の軟水を取り寄せるなど水にこだわっている店も少なくない。
今回【éks KAISEKI】の開発に挑んだ東京・神楽坂にある日本料理店『虎白』の店主小泉瑚佑慈さんも然り。「出汁は料理の要。出汁が“うまい”と、料理の味も決まる」と日々出汁に細心の思いで向き合っている料理人だ。「昆布のグルタミン酸、鰹のイノシン酸、そして天然の超軟水の相乗効果で美味しさの頂点を狙って出汁をひきます。つまり豊かな香りとうまみは出ているけれど、えぐみや雑味が一切出ないようにその日の温度や湿度など気候も計算に入れ、お湯の温度、昆布や鰹を入れる、あるいは漉すタイミングなどを微調整しています」と話す。
小泉さんは『神楽坂 石かわ』の石川秀樹さんの一番弟子として創業当初から研鑽を積み、ミシュラン3つ星の獲得に貢献。2008年に料理長として任された『虎白』でも着実に星を重ね、20015年、36歳で3つ星に昇り詰めた実力の持ち主。小泉さんが目指すのは「ここでしか食べられないもの、驚きのある料理をつくること」。そこで、トリュフやキャビア、フカヒレなど日本料理での枠に囚われない食材も使い、独自の技法も使う。「でもそれは気をてらうことが目的ではなく、季節の食材の美味しさをこれまでにない食材の組み合わせや料理法でより美味しくしてお客様の心を動かしたいという思いです」とチャレンジはしますが、着地点はあくまでも日本料理。だからこそ、味を決める出汁はとても重要なんです」と話す。